第12章 唯-小鳥遊正嗣-
「はい」
「そう……。私を軽蔑したのだろうね。だから、ここへ?」
心弱った女性を辱めた卑怯者を断罪しにきたのかな、と自嘲気味に呟く彼に、○○は首を振った。
「違います!私は…自分でも、分からなくて。気が付いたら、ここに来ていて……」
「それでは、まるであの夜のようだね」
「はい。だけど、責めるつもりなんて。そんな権利、私には……」
「権利?そんなものなら、貴女には幾らでもある。私が何をしたか、もう思い出しているのだから」
「そ、それでも…です。あの時、小鳥遊さんは私を助けてくれたじゃないですか」
「貴女という人は……」
言いかけ、そこで言葉を止めて、正嗣は微かに頬を歪めた。
彼女はあくまで、あの夜、ただ救われたと思っているのか。
あるいは、そう思おうとしているのか。
微かに思案して、ふと、正嗣は庭での○○の言葉を思い出した。
『あの時の私も、他の女性客みたいに……?』
確かに、そう言っていた。
つまり、それは。
「貴女は、私が他の女性客にも、ああしたことをしていると思っているのかい?」
「ぇ…っ、ぁ、その……」
途端に朱を孕む少女を見て、図星らしいことを正嗣は悟った。
だとすれば、○○がまるで非難してこないのも、正嗣にはすぐに合点がいった。
「なるほど。あの夜…私は貴女を『客』として扱ったと、そう思っているのだね」
だが…と、正嗣は言葉を継いだ。
「私は、どのような相手であれ、『客』に触れるようなことはしない。ああ、時には、肩や手に触れるくらいはあるけれどね」
魔声と、そして術と暗示と……。
それらをより効果的なものにする為に、時として緊張している女性客の手にそっと触れるくらいのことは、確かにあるし、彼女達が望む暗示を軽くではあるが、施すこともある。
もっとも、それが『女性客に不埒な真似に及んでいる』と誇張されて喧伝されているのも承知している。
だが…それだけだ。
そう正嗣が語るほどに、○○は驚きに目を瞠り、その場に固まった。
あの夜の全てを、『客』として扱われたと思い込んでいたのなら、○○には確かに衝撃的というものだろうし、それに……。
「それでは、何故…と思うだろうね」