第14章 腕前と衝突
その時、左手の人差し指に鋭い痛みが走った
……しまった
緋村さんの言葉に耳を疑って、彼を見た瞬間勢い余って切ってしまった
たらりと垂れる真っ赤な血
あ……やばい
これは……
ぐらりと視界が揺れたとき、私は緋村さんに抱きしめられていた
『ひ、むらさん……?』
「大丈夫でござるよ」
まるで赤子をあやすように、私の背中を優しく叩いてくれる
生前のことを思い出しそうになった
思い出してしまうと、パニック性の過呼吸が症状として現れることを彼は知っているから
それを抑えるために、こうして包み込んでくれた
緋村さんの匂いに包まれながら、私は落ち着きを取り戻す
『ごめんなさい……。なんかいきなり……』
「気にする必要はないでござる。それより真愛殿は大丈夫でござるか?」
『私は、もう大丈夫です』
「今、絆創膏を取りに行ってくるから、水で洗い流しとくといいでござる」
そう言って彼は、台所を後にした
私は、緋村さんに言われた通りに水で洗い流す
思ったより傷は深くないみたいで、洗い流せばほとんど血はとまっていた
人差し指を自分の口の中にいれる
「唾をつけとけば治る」というおばあちゃんの知恵袋をいまだに信じている私は、かすかにしみる傷をなめる
少しだけ鉄の味がする
その味に眉をひそめる
「絆創膏でござるよ」
戻ってきた緋村さんは私の手をとる
「自分でやる」と言っても聞いてくれなくて
だから、彼にすべてを任せた
ごつごつとした少し大きな手
身長は低くて女性みたいな顔をしていてもやっぱり男の人
優しいその手つきに私の心臓は、爆発寸前
ただ、触れられるだけで死にそうになるって重症にもほどがある
でもそれくらい緋村さんが好きってことで
でも彼は私の気持ちなんかわかっているはずもなくて
それが切ない
離れていく温もりが嫌で、思わず私は彼の手を握り返してしまった