第13章 雷十太と剣術
そして、試合が始まった
「それでは一本目!」
試合は、あっけなく終わった
一本目は、前川先生の肩口に
たぶん、きっと骨にひびが入っているだろう
二本目は脳天
それで勝負はついた
気を失ってしまった前川先生
早く病院に連れて行かないといけない
しかし、雷十太はそれを許さなかった
勝負がついたというのに、彼は前川先生の胸ぐらをつかみ
“突き”をしようとする
それは前川先生の喉元に向かっていて
私はとっさに竹刀を持ち、走り出す
しかし、それをいち早く止めたのは緋村さんだった
緋村さんの逆刃刀は雷十太の首元につきつけられていた
「…お主の二本勝ちで勝負はついたはず。殺す気でござるか」
「………いかにも。そもそも人の命は一人に一つ。故に“三本”勝負など有りえん事。勝負は常に一本。殺るか殺られるかである」
……剣術は人を殺すためだけにあるわけじゃない
誰かを守ったり救ったりもする
人を殺すだけが剣術じゃないのに
雷十太は緋村さんにも手合せをしたいと言ってきた
今度は竹刀ではなく、真剣で
「力比べや人に見せるために剣を振るう気はござらん。何より、この刀が示す通り、拙者は殺人剣を禁じている」
「左様か。由太郎」
「はい」
「道場の看板を外して燃やせ」
看板を燃やすということは、道場が死ぬということ
それだけは避けたいはずなのに、門下生は動かない
当たり前だ
師範が負けた今、誰がこの男と勝負しようと思うのか
『私が相手します』
気づいたらそう言っていた
面識もないし、ここに来るのだってはじめてだ
でも、放っておけない
竹刀を構える私
しかし、それを制止する手
緋村さんだった
「わかった…。拙者が相手を致そう。だが、これはあくまで道場での手合せ。得物は竹刀でござる」
「…よかろう。だが、勝負は一本だ」
竹刀を手にする緋村さん
彼は私の頭に手を置き“大丈夫”と笑ってくれた