第8章 自傷の傷と心の傷
先ほどまで、生きていた人
血が流れ、言葉を話していた
彼らには、彼らの生活があって、もしかしたら、家族がいたかもしれない
その瞬間、私の頭の中に映像が流れた
マンションのベランダ
見慣れた風景
雲一つない綺麗な青い空
子供の遊んでいる声
車の走る音
鳥の鳴き声
涼しい風が身体をすり抜ける
この光景……知っている
忘れられるはずもない
私が、自殺をした日
……私も、生きていた
血が流れていた
話していた
でも、死んだ
飛び降りたから
きっと見るに堪えない姿だったと思う
「真愛殿、戻るでござるよ。恵殿からいろいろと聞きたいこともあるし」
緋村さんの声が耳に届くが、動けない
息が、できない
手足に力が入らなくて、私はその場に跪く
心配、かけたくないのに……
「おい、真愛!どうしたんだよ」
「パニック性の過呼吸よ。ちょっとどいて」
私の背中を擦る優しい温もり
少しずつ、落ち着きを取り戻す
「ゆっくり息を吸って、吐いて……。そう、その調子よ。あと数回それを繰り返して」
恵さんの言われた通り、ゆっくり深呼吸をする
息苦しさはなくなったものの、手足に力は入らない
とりあえず、私は恵さんにお礼を言った
そのあとは、相楽さんにおんぶをされて帰ったわけだが
やはり、緋村さんと相楽さんに迷惑をかけてしまった
「大丈夫でござるか?」
『…あ、はは。心配かけてごめんなさい。もう、大丈夫です』
私は無理やり笑顔を作り、安心させる
まさか、死体を見て自分の自殺を思い出すとは思わなかった
未だに残る心の傷
今は何とか、この人たちといい人間関係を築けているとは思う
でも、それが崩れたらと思うと胸が痛くなる