第2章 兄と妹とその周辺
部員に指示を出している笠松先輩は、俺の一言にちょくちょく怒鳴る。
真面目な性格のため、毎回俺の冗談を真に受けるのだ。
「ほんと真面目っスよね〜。それこそ呆れるくらい」
「文句があるなら辞めてもいいぞ」
「別に文句じゃないっスよ?ただ、もう少しやらかくてもいいのにって思っただけっス」
むしろそういう姿勢は尊敬している。
それこそ「っち」を付けたいくらいに。
先輩なので、それは無理な話だが。
「あの〜、すみません」
笠松先輩の近くから離れた時、後ろから声をかけられた。
マネージャーを募集していない(黄瀬のファンで溢れかえるため)海常バスケ部で、聞こえるはずのない女子の声だった。
「どうしたんスか?」
自分のファンだと思い込んだ俺は、ドアの傍に立つ女子に笑顔で返事をした。
なかなか可愛く、見た目はそれなりに好みである。
髪を肩下まで伸ばし、身長は160cmくらいだろうか。
いつもならここで、「これ、よかったらどうぞ!」とか言って差し入れを渡されたり、サインやらなんやら頼まれたりする。
だが今回は違った。
「3年の笠松 幸男いますか?」
「…え?」
予想外の返答だった。
ましてやここで笠松先輩の名前が出てくるのが、信じられない。