第53章 -バレンタイン-
「ハート…切りたくないなぁ…って。」
「…⁈」
「切って食べると…なんだか
心まで離れちゃうみたいだから…
だから…一緒に食べたいな…って。」
ひかりは恥ずかしそうに、
ケーキを見ながら小さな声で言った。
やっぱり…不安にさせてんだよな…。
「あ…ごめんね!変なコト言って…。
ケーキくらいで思い込み激しいよね‼︎
食べにくいし、やっぱりナイフ持って…」
「ひかり‼︎」
慌てて立ち上がろうとする
ひかりを引き寄せ、
元の場所に座らせる。
「イヤなんて言ってねーだろ?
ほら、食うぞ‼︎」
ひかりからフォークを受け取り、
一口食べる。
「うん…やっぱうまいな。」
甘すぎないチョコレートケーキだった。
「ほんと?よかった‼︎」
2人で少しずつ、1つのケーキを食べる。
「修造、あーんてしてあげようか?」
「はっ⁈いいって…」
「いいじゃん♪ほら、あーん!」
いつかのように、
ひかりが笑いながら、
ケーキをオレの口に運んでくる。
「おいしい?」
満面の笑みのひかり…
そりゃ、うめぇけど…
「じゃ、次、ひかり‼︎
ほら、あーんてしろよ?」
「え⁈」
ひかりの口元にケーキを持ってくと、
ひかりは途端に真っ赤になる。
「ひかりが先にしたんだろ?
ほら、食えってば♪」
照れるひかりがかわいくて、
ひかりの顔を覗き込むと、
ひかりは照れながら、
小さく口を開いて食べた。
「ん…我ながらおいしい♪」
甘さ控えめのケーキなのに、
すごく甘い優しい時間…
このまま時が止まればいいのに…
ガラにもない…そんなことを
ずっと考えていた。