第2章 壱
黙る私に彼は気にかけるように声をかけた。
「協力していただいてる以上、貴方に危害は加えさせません」
言いながら彼は元々持っていた手荷物を探る。
そんな彼を不思議に思って見ていると彼は私の方へ袋を差し出した。
「ですからあまり気にせず、そんなに気を落とさないでください」
私は袋を受け取るとその中身を見た。
そこには箱があって。
「お昼のお礼に買ってきたケーキです」
「えっ、受け取れないです……!」
私は慌てて彼に返そうとするけれど受け取ってもらえない。
お礼が欲しくて渡したわけではないのに。
それに、見るからにちゃんとしたお店のケーキらしい。
どう考えても従業員割を使ったクッキーでは割に合わない。
「ケーキ、苦手でした?」
「そんなことはないですけど……」
「でしたら是非」
彼はどうやら受け取ってくれそうにない。
「貴方もクマが出来ていること、気づいてます?」
「え?」
「……覗き見るようで悪いのですが、あまり寝れていないでしょう」
言いながら彼はベッドの方をチラリと見る。
物の記憶を読み取るということはそんなことまでわかってしまうのかと驚くと同時に気恥ずかしい。
「甘い物でも食べて少し落ち着いてみてください」
「……はい、ありがとうございます」
大人しく従うことにして、私はもらった袋を手元へ寄せた。