第8章 異変
煉獄の死から一週間。
怪我をしていた炭治郎達は蝶屋敷に入院していた。
そんな炭治郎達を見舞いに、名前は蝶屋敷に顔を出した。
「あら、名前さん」
『しのぶさん、ご無沙汰しています』
炭治郎達の部屋に行く前に、屋敷の主人であるしのぶの部屋に名前は立ち寄った。
「煉獄さんの件は残念でしたね。名前さんも気落ちされないように」
『ありがとうございます、ですが俺がもう少し早く……』
「名前さん、あまり抱え込まない」
しのぶの言葉に、俯いた顔が上がる。
「鬼殺隊であればいつ死ぬかわからない。貴方も今までたくさんの仲間が死ぬのを見てきたでしょう。柱も一緒です。私たちは前を向き続けなければいけません」
心に深く突き刺さる。
静かに頷いた。
『そうですね』
「はい。ただ悲しんではいいと思います。そうじゃなきゃ、人間じゃなくなっちゃいますもの」
しのぶは励ますように、にっこりと笑った。
「それはそうと、腕の傷はどうですか?」
『それが……』
あの時兄に噛まれた右腕の傷。
その時はただ噛まれただけだと思っていたが。
「ん……?なんか変ですね」
隊服を捲し上げしのぶに見せた右腕には、噛まれた傷から少しだけヒビのような傷が出ていた。
『一週間もすれば治ると思っていたのですが』
「傷も治りが遅いですね、何なんでしょうか、この傷は」
治ると思っていた傷は出血は収まっているものの、治る気配がなく、むしろ広がっている。
「初めて見る症例ですからわかりませんが、一応お薬出しておきましょう、また見せてくださいね」
『ありがとうございます』
しのぶにお礼を言い、部屋を出る。
兄は普通の鬼ではなかった。
異能、血鬼術を使える。
それを予見できなかったのは名前の油断があったからだ。
この傷から出るヒビが何らかの血鬼術で、段々と身体を蝕むような能力だった場合。
この右腕は使えなくなる可能性がある。
刀を持てなくなる。
そうすれば炭治郎を、日の呼吸を守れない。
鬼舞辻を、兄を倒すことができない。
しのぶに頼んで解毒薬のようなものを作るのにも、おそらく兄や鬼舞辻に近い鬼の血が必要になるだろう。
どうしたものか。
名前は己の力不足を悔やみ、小さく溜息をついた。