第65章 炭治郎の強く訴える声が柱には届かない
「……俺の妹は鬼になりました。だけど人を喰ったことはないんです」
今までも、そしてこれからも喰ったりはしない。
人を傷をつけることも絶対にしない、そう必死で弁論するのに柱は誰一人として信用してくれず、まともに話しさえも聞いてもくれない。
くだらない妄言だとも言われた。
禰豆子のこと何も知らなければそう思われても仕方のないことだと、炭治郎も少しは理解している。
けれど、禰豆子を知って変わってくれた人がいるから希望は捨てない。
義勇と桜も初めから心許してくれていたわけではない。
禰豆子のことを知ってから二人は理解を示してくれた。
だから他の鬼殺隊員にも禰豆子だけは他の鬼とは違うということを知ってほしかった。
「妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!!」
それは炭治郎の心からの叫びだった。
これまで禰豆子は幾度となく人を守ってきた。
その事実を目の前で証明できないのが炭治郎は悔しかった。
桜は、炭治郎の強く訴える声が柱には届かない歯痒さに唇を噛み締める。
禰豆子は本当に違う。
カナヲに追われても逃げ回るだけで禰豆子から攻撃を仕掛けたことは一度もない。
桜が背中を向けていても襲う素振りも見せなかった。
どうすればそれを証明することができる?どうすればそれを信じてもらえる?
それを思案していた時だった。
「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」
「!!!」
「!!!」
「っ!?」
「!!!」
遅れて最後に現れた風柱・不死川実弥の姿に、義勇と桜、しのぶが眉根を寄せ、炭治郎は絶句した。
その実弥は左手だけで禰豆子の入った箱を軽々と持ち上げている。
顔をしかめた三人は、実弥が箱の中身を把握しており、ただそれを持ってきただけではないだろうと感じ取っていた。
「鬼を連れた馬鹿隊員はそいつかいィ。一体全体どういうつもりだァ?」
「不死川さん、勝手なことをしないでください」
実弥を見るしのぶの表情からは珍しく笑みが消えている。
だからといって、それで怯むような実弥でもないが。
「鬼が何だって?坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ、そんなことはなァ」