第65章 炭治郎の強く訴える声が柱には届かない
声の主、蛇柱・伊黒小芭内は枝に寝そべりながら炭治郎ではなく、遠くを指差している。
「胡蝶めの話によると隊律違反は冨岡と春空も同じだろう」
彼が指差す方向に桜がいるのか。
炭治郎がもう一度、目を凝らして見ると義勇と杏寿郎の間、挟まれるように立つ桜がいた。
「どう処分する。どう責任を取らせる。どんな目にあわせてやろうか」
つまり、義勇と桜は自分に関わったばかりに、その責任を取らされようとしているのだと炭治郎は理解した。
こんな大事になるなんて思いもしなかった。
あの時は、ただ禰豆子を守りたかった。
そのためには味方してくれる者の存在が心強くあり、ありがたくもあった。
誰にも頼れなくて、そんな時に差し伸べられた手を握ることがこんなにも重かったなんて思いもしなかった。
巻き込んでしまった責任と申し訳なさで、炭治郎の顔は今にも泣き崩れそうなほどに歪んでいる。
「まぁいいじゃないですか。処罰はあとで考えましょう。それよりも、私は坊やのほうから話を聞きたいですよ」
「………っ」
そうだ。
なぜ鬼殺隊である自分が鬼を連れているのか、それを弁明し、みんなにも理解してもらうことができれば、もしかしたら二人は懲罰を与えられずにすむんじゃないか。
他の柱にも禰豆子を知ってもらう機会でもあるのに、顎の骨が割れているので上手く声にならない。
伝えたいことがたくさんあるのに、言葉にできない歯痒さに炭治郎は眉値を寄せ悔しさを滲ませる。
「水を飲んだほうがいいですね。顎を痛めていますからゆっくり飲んで話してください」
しのぶが炭治郎の目の前で膝を着き、手のひらサイズの瓢箪を取り出し炭治郎の口元に持っていく。
炭治郎がコクリコクリと小さく喉を鳴らし水を飲む。
水に溶けた鎮痛薬は即効性があるのか、その効果で痛みが和らいできた。
「怪我が治ったわけではないので無理はいけませんよ」
『でも、失われた血が戻ることはないので無理は禁物ですよ』
念押しするしのぶが、あの時優しくしてくれた桜の姿と重なって見えた。
優しくしてくれた人を俺は窮地に追い込んでしまった。
桜を、義勇を助けたい………
炭治郎は口を開いた。