第64章 私は自分の意思で隊律違反を犯しました
「よもや、冨岡を庇うのか……?」
「違います。庇おうとしてくれたのは、むしろ冨岡さんです」
「………………」
杏寿郎が義勇に向くと、力を落とし顔を背けていた。
あのまま桜がその場の空気に飲まれ黙っていれば自分一人の隊律違反ですんだのに。
桜を庇うつもりでいたのが、逆に庇われてしまったことを義勇は情けなく思っていた。
「ま、庇う庇われたなんてことはどーでもいいわ」
それまで黙って聞いていた天元が呆れたように口を開いた。
「問題は揃って隊律違反したかどうかだ。コイツを含めてな」
天元がクイっと顎である方向を指す。
桜が怪訝な顔でそちらを見ると、まるで米俵でも担ぐように隠に運ばれてきた炭治郎がゴロリと地面に転がされたところだった。
(炭治郎くん………)
後ろ手に縛られて、あれでは罪人のようだ。
炭治郎の痛ましい姿に桜は顔をしかめた。
「いつまで寝てんだ。さっさと起きねぇか!」
少し雑に炭治郎を起こそうとする隠に桜はその場から声をかけた。
「その方は怪我人です。もう少し優しく声をかけてあげてください」
「も、申し訳ありません春空様!」
隊律違反をしたとはいえ桜は自分より格上の相手、隠は平に謝った。
そんな桜の姿に、杏寿郎は義勇を庇ってあのようなことを言ったのではないと確信した。
理由はどうあれ、桜が炭治郎を大事に思っていることも。
その時、回りの騒がしさが気付け薬になったのか炭治郎がうっすらと目をあけた。