第64章 私は自分の意思で隊律違反を犯しました
柱としての立場よりも、私情のほうが強く大きいのは、杏寿郎もあるまじきことだとは思う。
だが、大事だと思っている桜をこのような辛い目に遇わせた義勇に怒りが収まらないのだ。
胸ぐらを掴まず、こうして冷静に立ち振る舞っている自分を、むしろ褒めてやりたいくらいだった。
なぜ、義勇は大切だと想う相手を窮地に立たせるようなことをするのだと。
隊律違反をすればどうなるか、柱である義勇が知らないはずがないだろうに、なぜだと、その双眸が語っている。
「弁明もないのか冨岡」
「煉獄さん!違うんです!」
その時、いても立ってもいられないと桜が義勇を庇うように前に出た。
杏寿郎は誤解をしているし、このまま黙っていたら義勇一人が悪者になってしまうと思ったからだ。
口数の少ない義勇は誤解を招くことが多々あるが、今回なにも言わないのは自分を庇ってくれてのことだと桜は知っているからだ。
あの時『責任は俺がとる』と言っていたのは、全ての罪を被るということだとは察していた。
でも、桜は自分のしたことの責任は自分でとると言ったのだ。
だから、ちゃんと自分の口から自分の言葉で言わなければ。
「私は自分の意思で隊律違反を犯しました」
「!」
「桜…っ!」
桜の言葉に杏寿郎は目を見開き、義勇はそれ以上桜に何も語らせまいと腕を引き己の背に隠そうとするが、桜は頑なにそれを拒み引き下がろうとはしなかった。
「冨岡さんは私に命令をしたわけでも、無理強いをしたわけでもありません!」
「桜………」
しっかりと杏寿郎の目を見据える桜。
その言葉に他の柱たちがハッと息をのんだ。
杏寿郎と同じように桜は義勇に従っていただけだと、巻き添えを食っただけだと思っていたからだ。
桜を誰よりも信じている杏寿郎は、それでも桜の言葉を鵜呑みにすることができなかった。