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不治の中毒症状を/テニスの王子様

第1章 


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「…美幸、あのさ…ど、どこ行くの?」

返事はない。教室を出てからずっとこの調子だ。何度話し掛けても応じてくれない。どうやら俺は彼女を怒らせてしまったらしい。
俺、美幸に何かしたのかな…?皆目見当がつかないのだけれど…。

先導され、行き着いた先はシアタールームだった。このシアタールームは、中等部の視聴覚室の老朽化に伴い高等部との合同施設として建設されたものだ。最新の音響設備が整っていることから隔週でオペラや映画鑑賞会が開催されている。今日の催しはないらしく、人の気配はない。

「ねぇ、美幸。ここって、勝手に入るのはまずいんじゃ…」

控えめな制止も聞かず、美幸は俺の手を引いたまま構わず中へと足を踏み入れる。
中へ入ると照明が自動的に点灯した。間接照明の淡くほんのりとした煌めきが心地よい。

「うっ、わぁ!」

と、不意に身体を強く押され頓狂な声を出してしまう。押された衝撃で付近の壁に追いやられたかと思うと

バンッ――

美幸は勢い良く壁に両手を付け、こちらを見遣る。突然の出来事に思考が追いつかない。動揺でただただ閉口する。
え、これ、所謂壁ドンってやつだよね…?こういうのって普通男の方からするんじゃない

「長太郎」
「は、はい…」

上の空だった俺にぴしゃりとした美幸の声が届く。美幸の有無を言わせない口調に、ごくり、と息を飲む。
彼女から目を逸らすことが出来ない。

「私は、怒っています」
「そうみたい…だね」
「……」

長い沈黙。耐え切れず言葉を紡ぐ。

「俺、何かしたかな…?」

一瞬の沈黙。またこちらから声を掛けようか逡巡していると、美幸の口が微かに動いた。

「のよ…」
「え…?」
「どうして女の子からプレゼント受け取っちゃうのよ」
「え、あ…そのことかぁ…」

彼女の言葉を聞いて、漸く合点がいった。

「やっぱり、人の好意を無下には出来ないよ…」

言い訳がましいかもしれない。それでも、真実を述べることにした。美幸の次の言葉を待つ。暫く間を置いて彼女は口を開く。

「私も、大勢の女の子と一緒なの?」

先刻までとは打って変わって弱々しい彼女の口調に、俺は呆然とする。

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