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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第2章 こわさと、やさしさ


しかもこの部屋は角部屋で、隣の部屋は何かの事務所に使われている。こんな時間に人が残っている可能性は低いが、それでも楓に出来ることはそれしかなかった。

「楓……」
「痛い!!やめて!!」
「静かにしろ、話聞け」
「嫌や!!くっ……」

顔の下半分を手で掴まれて覆われた。苦しい。息がしづらい。

「んん、んー!!」
「お前、何やこれは、俺がなんて言うたか忘れたんか?派手な化粧して、他の男に色目使うな言うたやろ、ボケが」
『知らんわ、そんなん……!!』

そもそも、狂児は薄化粧を好むから厚化粧なんてした覚えはない。

部屋の奥まで男に拘束されたまま進まされる。ダイニングのテーブルの上の、二人分の食事の用意。男はそれに目をつけてきた。

「なんやこれ、おい、男か?男かおい!?」

楓の顔を掴んだまま揺さぶる。頭がクラクラした。楓は何とか自由な方の手を使って男の手を引き剥がした。

「あんたに関係ないやろ、……友達と食事するから用意してたんや」
「友達い?量が多すぎるんとちゃうか、男やろが、誤魔化すなよ!!」
「あかん、やめて!!」

男はダイニングテーブルの脚を蹴った。テーブルがその勢いで床を滑る。
テーブルの上で食器がぶつかり、倒れて、転がり、割れて、床に落ちる。出来たばかりの料理とグラスが粉々に散った。
ケーキの箱が、落ちる。
それらがスローモーションのように見えた。

「ひどい……」

狂児さんのために、作ったのに。久しぶりに手料理を食べてもらえるから、頑張ったのに。

怒りよりも悲しみが勝って、目の奥が熱くなった。こんな奴のせいで泣きたくないのに。
楓は床に崩れ落ちた。男は楓の髪を掴んで上を向かせる。楓は男を睨んだ。男の目は未だ怒りに燃えている。

「お前が悪いんやぞ、なあ、嘘ついて誤魔化すお前が」
「誰が悪いって〜?」

玄関から間延びした声がして、どす、どす、と室内に威圧感のある足音が響く。
ぬっ、と廊下側から威容なオーラを放ちながら、狂児が現れた。

「狂児さん……」

楓はその姿を見て、声をあげて泣いた。

「おい、やっぱり男やないか、お前……」
「ゴラァアア!!!楓ちゃんから手ェ離せやボケェェ!!!!」

部屋の中の空気が、ビリリ、と震えた。
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