第1章 はじまり
母が仕事を辞めた分のしわ寄せは大きかった。
美雲1人で抱えられる仕事量ではなかったが、朝早くから遅くまで長く時間をかければ終わらないこともない。
(自分で決めたことだ…ッ)
くじけそうになる自分を一喝し、毎日毎日身を粉にして働いた。
仕事から家に帰るころには両親はとっくに寝ている時間になっている。
今日も仕事を終え帰宅すると、父の布団の傍らでスヤスヤと眠る母。
仕事を辞めてからは疲弊した様子もなくなり父のそばで穏やかな日々を過ごせるようになっていた。
いつもなら父も寝ているが、その夜は違った。
「おかえり、美雲」
その小さな声は母を起こさないよう配慮したのではなく、症状が進行し声を出すこともままならないからだ。
「起こしちゃった?ごめんね。身体どう?苦しくない?」
父のそばに近寄り言葉をかけた。
「だいじょうぶ、起きてたから。、、、身体はあいかわらず、かな。顔の筋肉も動かしづらい。呼吸も、、、そろそろな気がする。」
ハツラツとしたした父の面影はそこにはない。筋肉が痩せ細り、骨が浮き出るほどげっそりとした父が答える。