第2章 消えた雨粒
衝撃が来ない。その代わりに身体の浮遊感を感じた。
(私、死んだのかな…。母を助けることもできずに…。)
(最期まで後悔ばっかり。母のことも、父との約束も、何も守れなかった。
自分のやりたいことも見つからなかった。家族の事ばかり考えていた人生。でもなにも残らなかった。結局独りぼっちだ…。
父さんが望むような添い遂げたいと思う人も見つけられなったな…。)
浮遊感の中でいろいろなことを思い返していた。
「…しっかりしろ。」
知らない声が聞こえた。すぐそばから。
私は閉じていた目をゆっくりと開いた。さっき見えていた月が大きく瞳に映る。
月と重なるようにして男性の顔が視界に入る。
黒い髪、切れ長の目、すっと通った鼻筋。その横顔に思わず見惚れてしまう。
男は私を抱えたまま建物の屋根の上に着地する。
感じていた身体の温かさはすぐに離れた。
改めて男の姿を見つめる。左右で柄の違う羽織を身に纏い、腰には刀をさげている。
「鬼を前に無防備になるな。死にたいのか。」
怒っているわけでもなく、男は真っすぐ私を見据えて話す。その視線は微かな動きもなく、鬼を前に死を受け入れてた私を軽蔑しているようにも見えた。