第2章 消えた雨粒
ギラリと光る二つの目玉はそろりそろりと家から出てきた。月明かりに照らされて美雲の前に全身を現す。
血濡れた肌、敵意を向けてくる瞳、薄い唇の隙間からのぞく牙、町の人たちの血で染まった着物___
私の知っている母とは似つかない容貌ではあったが、そこに現れたのは間違いない、私の母だ。
きれいな黒い髪、陶器のような白い肌、目元に影をつくる長いまつげ、白と紫で水彩のような淡い色使いの着物____
変わり果てた母。
「、、、お母さん!ごめんなさい!!一人にしたりして!」
母に向かって叫ぶ。返答はない。代わりにフゥフゥッという獣の息遣いだけが聞こえる。
「私、お母さんのこと何もわかってなかった!私だけが我慢してるって思ってた。お母さんも必死に頑張ってたんだよね?耐えてたんだよね?お母さんの力になれなくてごめんッ、、、」
涙で視界が滲む。でも、ちゃんと気持ちを伝えないと後悔する。変わり果てた姿になった今でも、まだ声は届くかもしれない。
助けられる可能性があるなら、私はもう二度と母を見捨てたくない。
どうか、どうか、もう一度。母との変わらぬ日常を取り戻したい、そう願った。
「ガァッ!!!」
母は牙を向き、すごいスピードで美雲に向かってくる。
(、、、、届かなかった、、)
迫りくる母を見つめながら、自分の最後の願いは儚く散ったのだと分かった。一度母を見捨てた私を神様は許してくれなったんだ。
諦めるように目をつぶった。涙が一筋流れた。