第2章 消えた雨粒
美雲はあっという間に町に着いた。通りのあちこちに血まみれの人が倒れている。
女、子ども関係なく、多くの人々が傷を負っている。微かに息をしている人もいるが、その顔色は真っ白で、今にも止まりそうな息遣いだった。
変わり果てた街並みに息をのむ。私が生まれ育ち、慣れ親しんだ町並みはもうそこにはない。
そこに広がる光景はまるで地獄だ。誰も動かない。逃げきれずに道に倒れたままのひと、壁にもたれるように力尽きているひと、守ろうとしたのであろう母と子が重なって倒れている姿も見えた。
悲惨な状況を目の前に足が竦む。
(、、、ひどい )
余りの惨状に涙がこぼれそうになる。
(、、、これを母が、、)
嘘であってほしいと願う。しかし、頬に当たる冷たい雨粒が現実なのだと伝えてくる。震える手を握りしめ、力を込める。泣いている場合ではない。前を向く。
(あのとき確かに見えたのはお母さんの姿だった。
まだこの辺りにいるはず。)
誰も動かない静の空気の中で、母の姿を探す。
母の気配を感じろ___
周囲へ神経を研ぎ澄ませる。全身の毛が逆立つような感覚がした。全身に力が入る。
「…グルルルッ」
通りに面した建物から声がする。その唸りを感じるほうへ視線を向ける。通りの一番奥の家、その扉からこちらを睨む目があった。
暗い夜に浮かび上がる2つの光る目玉。それは人間ではない、まさに獣。
対峙した”鬼”という存在に美雲は目を離せなかった。