第10章 圧倒的な力
部屋には隊士の寝息が聞こえる。月が雲で隠れて、ひっそりとした深夜。それは突然だった。
部屋に鴉の大きな声が響く。
「鬼襲来ィ!!コノ屋敷チカク!!急行セヨォ!!」
鴉の声で隊士たちは飛び起きる。すぐに着替え、刀片手に屋敷を飛び出る。
屋敷の目と鼻の先で子どもの悲鳴が聞こえてくる。必死に逃げてきたであろう子どもは背後から迫ってきた、鬼にあっけなく捕まえられる。血しぶきが飛んだ。
思わず目をそむけたくなる。鬼はこちらに気付き、にやりと口角を上げる。口には新しい鮮やかな血がついている。
「今日はいい獲物がいっぱいいるぜぇぇぇ」
鬼は一歩ずつ近づいてくる。隊士たちが刀を構える。
数名の剣士たちが目くばせをしあい、一気に切りかかった。
「血鬼術 弛緩泡沫」
鬼が指で輪を作る。息を吹けば無数の泡が生まれる。
すでに間合いに入っていた剣士の身体に泡が触れる。
泡は触れた瞬間に次々と弾け、その爆風で周辺に砂埃が舞う。状況が分からないと美雲は目を凝らす。
砂埃の中からうめき声が聞こえる。
砂埃が落ち着いてくる。最初に確認できたのは笑みを浮かべる鬼の姿。そしてその周りには爆発によって手足が飛び、苦しんでいる隊士が見えた。中には、胴体が分断された隊士もいる。
辺りに一気に漂う血の匂い。血の匂いとともに微かに違う匂いが混じる。その違和感に隊服の袖で口と鼻を覆う。
美雲の隣にいた2人の隊士が急に倒れこむ。咄嗟にその身体を支えた。隊士はガッ!ガァッ!と呻きを漏らし喉をおさえる。突然のことに全く状況が理解できない。