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マイハート・ハード・ピンチ

第12章 アンネリーのメランコリア


バイトを終えて珊瑚が聖司のもとへ帰ると、彼の腕には大きな花束が抱えられていた。聖司が自宅用にこうして花束を購入することは珍しくなかったので、彼女はそれを見ても特に何も不自然には思わなかった。
まるっこいエキナセアが愛らしいブーケだ。聖司がなにやら騒がしくあれこれ注文をつけながらブーケを店員に作らせているのは気づいていたが、たしかに配色や植物のセレクトのセンスがいい。

エキナセアに、グリーンのケイトウ、そしてスノーフレークゼラニウム。
派手さはないが、繊細に重なり合う花びらのレイヤーが美しい。

珊瑚がなるほどな、とブーケを観察していると、聖司は満足げな顔をして「いくぞ」と彼女を店の外へと促した。

聖司は海岸へ向かう道をスタスタと歩いている。雨はすっかり上がって、雲間から覗く太陽が、オレンジ色の夕焼けの光をもらしている。
「どこへ向かうの?てっきり、車が外で待っているのかと」
珊瑚が不思議そうに首を傾げると、聖司は穏やかに言った。
「車じゃ、二人きりになれないだろ」
珊瑚は隣に並んで歩いている聖司の顔をちらりと伺う。彼はじっと珊瑚の方を見つめていた。だが、珊瑚は聖司がいま浮かべている晴れやかな微笑みの理由を知るのが怖くて、遠くに霞む水平線へと視線を戻した。
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