第1章 第一章
彼のあとに続いて梯子を登る。木とロープで作られたその梯子を登るのに少し苦労はしたが、最上段までいくと彼が手を差し伸べグイッと引き上げられた。
マーロンでは最近、防犯に備え鍵というものが平民のなかでも使われ始めつつあるが、ハイラルではまだのようで、彼はドアに手をかけるとそのまま開けて入っていく。
(まあ、でも、こんなところまでわざわざ盗みに来る人はいないわよね)
ハイラル城下町や近隣の村からも外れた場所にある彼の家。金銭目当ての盗賊なら此処を狙う理由は無いはずだ、と言い切れるほど彼の家は……良くいえば、素朴な家だった。
中に入っても外見を裏切らず極めて無秩序な作りだといえる。生活するにあたって最低限の物と場所さえあればそれでいいという彼の性格が伺える。
干した洗濯物を畳まずポイポイと床に投げ捨てているあたりも彼の性格の雑さが垣間見えた。男性物の下着を見るのが初めてというわけでは無いが、女の人を自分の家に招くにしては洗濯物や洗い物がそのままって…なんて少しだけため息を吐きそうになる。
(いやいや、彼は急遽、城に呼ばれて来たの。掃除なんてしてる暇ないに決まってるでしょバカ)
自分の部屋だってそれは汚いときだってあるものだ。突然の来客に悲鳴を上げて「あと十分待って!!」と言ったことは何度もある。それも段々、距離が近づく度にコイツなら汚くていいや、なんてごちゃごちゃの部屋に招くことだってあった。
(初対面の人には流石に最低限の片付けはするけど…)
女の私ですらそんなことがありえるのに、イケメンとはいえ家の中にまでその完璧さを求めるのは違うと思う。
「チーズは好きか?」
「へ?」
ふとされた質問に変な声で返す。
「凝った料理は作れない。だから、いつも食べてるようなものをと思ったんだが、前、チーズが嫌いな人間もいることを知ったんだ。だから聞いてる」
「チーズ大好きです!」
「ならよかった。乳製品しかうちは置いてないからな」
彼は大きなチーズを暖炉の中に引っ掛けてある鍋に放り入れる。そして。
「えぇ!?」
弓を構えたのだ。唐突に。その弓矢の先端は激しく燃えている。
「え、え、どういうこと!?」
シュン。矢が風を切り暖炉に火が灯る。
「火は弓でつけたほうが早いだろ?」
彼は片方の口角を上げて笑う。彼は普通の狩人どころか普通のハイラル人でもないようだ。