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【降谷零】なにも、知らない【安室透】

第7章 油断大敵


5分もしないうちに、肩にズシリと重みが加わった。
本当に寝てしまった様子の安室さんからは、すうすうと寝息が聞こえてくる。
右肩に安室さん、左腕に赤ん坊。
身動きが取れない私はしばらく赤ちゃんの顔を見ながらボーッとしていた。

20分ほど経っただろうか。
そろそろ起こしたほうがいいかな、と思いながら安室さんに小さく声をかける。
というか、肩が凝ってきた。
さすがに成人男性は重い。
何度か声を掛けると肩が少し軽くなった。

「安室さん?大丈夫ですか?」

ボーッとしている様子にまた声をかければ、今度は肩からバッと音が聞こえるんじゃないかと思うほどの早さで温もりが離れた。

「安室さん?」
「あ、いや。悪い。本当に寝る予定は無かったんだが」
「それだけ疲れてたって事ですよね。すみません。起こすの悪いかなと思ったんですが、もうすぐ3時になるので」

時計を見ればあと5分ほどで3時だ。
買い出しに出掛けたというマスターはまだ戻って来なくて、だったら安室さんがお店を開けなくちゃならないだろうと思って起こしたのだが。

片手で顔を覆って、安室さんはありがとうと小さく呟いた。

どういたしまして?

何故か適当に返事をするな、と頬をつままれた。解せぬ。

立ち上がって伸びをした安室さんは、そのまま扉の札をOPENにしてまた戻ってくる。

「まだ寝てるのか?」
「二時間くらいは寝るんじゃないですかね」

腕の中ですやすや眠っている赤ん坊を覗き込んでくるので、そう答えると褐色の手が伸びてきて、赤ちゃんの頬に触れる。
ぷにぷにですべすべで柔らかい弾力のある肌は触ってて気持ちいいよね。分かる。

「乳児院の手伝いと言ってたな」
「ああ。そうです。私を拾ってくれたとこの」
「子供、好きなのか?」
「そうですね。可愛いですし」

赤ちゃんの頬から手を離した安室さんは、そのまま私の頬に触れる。

「自分の子供が欲しいとは?」
「あー…。思いませんね。お世話は出来ますけど、子育ては出来ないと思います」

子供のお世話は出来る。けど母親にはなれない。
母親がどういうものか分からないし、家族がどういうものか分からないから。

へらりと笑えば、また頬をつままれた。
痛くはないけれど、やめてほしい。

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