第7章 油断大敵
一番端のテーブル席に案内されて、座るように促される。腰を下ろしてから片手抱っこに切り替えて、目の前に置かれたアイスコーヒーをストローで流し込んで、お腹がぐうと鳴った。
「ふっ。…昼は?」
笑いを耐えきれないようで、くすくす笑いながら聞かれる。失礼な。
「食べ損なった、というかいつの間にか寝てて安室さんの電話で起きました」
気付けば2時半になる。
ランチタイムが終わったからこそ、毛利さんは赤ちゃんを押し付けて行ったんだろうな。
「何か食べるか?」
「そうですね。奢りなら」
わざと言えば、当たり前だと返される。
じゃあ遠慮なく、と片手で食べられるものをお願いしたら赤ちゃんを下ろさないのか聞かれた。
さすがの安室さんも赤ん坊の世話は慣れてないらしい。なんでも出来ると思ってた。
「背中スイッチある子だと思うんで、起きるまで抱っこしてた方がいいと思って」
「背中スイッチ?」
聞き慣れない言葉らしく、不思議そうな顔をしている。珍しい顔が見れた。
抱っこで寝かしつけてもお布団に下ろすと目を覚ましちゃう子、背中にスイッチがあるように泣き出す子がいることを説明すると納得したらしい。
というか。
「安室さん、疲れてませんか?」
「まあ、多少はな」
「寝れてます?」
「あー…」
言葉を濁すということは、そういう事だ。
寝てないんだろう、目の下にくっきりとクマがある。
三徹したときの私より酷い顔をしているから、この人何日寝てないのだろうか。
私のご飯なんかより、少し休んだほうがいいんじゃないのかな。
マスターの話だと3時までは準備中でいいらしいし。
「よければ肩くらい貸しますよ?」
半分くらい冗談だったんだけど。
30分寝かせてくれ、と言った安室さんは隣に座って本当に私の肩に凭れ掛かって目を閉じてしまった。
マジか。