第6章 生きる意味を~数年後の自分~
「…お前が牢に入れられているのは上官に歯向かったからだ」
「はい」
「明日には解放されるだろう。そして訓練が始まる。明日に備えておけ」
「わかりました」
チッと舌打ちをしてどこかへ行ってしまった。
「いいんだ。これで」
布団をかぶる。
言ったこととは裏腹に、涙があふれてくる。
「これで、良かったんだ」
強姦されてもなお、リヴァイのことを嫌いになれない。
どんなに憎みたいと思っても、憎むことができない。
どんなに忘れたいと願っても、あのぬくもりを忘れることができない。
「リヴァイ…」
顔をうずめた枕を涙が濡らしていく。
「知り合いだったのか?」
ふいに落ち着いた声がした。
だが、顔を上げる気にはなれなかった。
急に重い金属が床に落ちる音がした。
急な騒音に驚き、顔をあげると、そこには落ちた南京錠と―
エルヴィン団長がいた。
「…団長?」
「失礼するよ。少し、用事があってね」
やさしく微笑みながらオレのいるベッドへ腰かけた。
オレを捕まえようとしていたときの趣味の悪い笑みではない。
「先ほどはすまなかった。頭、痛くないか?」
団長の手がそっと頬に添えられ、親指がこめかみに触れる。
大事なものに触れるような、壊れ物に触れるような、そんな触り方。
こいつに触れられると、気持ちいい。
リヴァイや、他の奴等とは違う…なんだろう。
安心する。
「大丈夫…」
こいつの前だったら、本当の自分をさらけ出せるような気がした。
エルヴィンの手が頬から離れていく。
「…団長」
「エルヴィンでいい。二人のときはエルヴィンと呼んでくれ」
「エルヴィン…」
わずかに頬が紅潮したのが、自分でもわかる。
呼び方を変えただけなのに。
暖かい気持ちになる。
「用事って、何ですか?」
団長…いや、エルヴィンが顔を背けて気まずそうに言った。
「用事という用事はないんだ。だが、仕事に集中できなくてね。君のことばかりが頭に浮かんでね」
「え…」
「いや、変な意味じゃない。誤解するような言い方をしてすまない。気になったことはすぐに調べたくなる。唐突で悪いが、いくつか質問をしてもいいかな?」
「…はい、大丈夫です」
何を聞かれるんだろうか。
少し身構えた。
「答えたくないことだったら、答えなくてもいい」
「…はい」