第15章 夜明けの空
一人、自室の丸窓から夜空を眺める。
照らしていた月明かりが薄くなり、少しずつ空の色が変わり始めてきた。
ふと、丸窓から見えたのは、一片の花弁。
蓮月は羽織を掴むと、未だ暗い廊下を走り出した。
出来るだけ静かにでも急いで駆け抜ける。
玄関を開け、また走り出す。
本丸の玄関口、大きな鳥居の前に立つ。乱れる息を少しずつ直し。前を見つめた。
夜明けの空色と共に、蓮月の前に現れたのは紛れもない彼。
カソックが少し肌寒い風と一緒に揺れる。
「っ…、おかえりなさいっ!!」
めいいっぱい大きな声で彼に向かい叫ぶ。
「へし切長谷部、戻りました。」
微笑む一振に、蓮月は駆け出し抱き締めた。
夜明けの空に藤と桜の一片が風に舞って消えていった。
END