第2章 #02
ひとつ取って左隣の研磨に渡す。
視界に入る黒尾さんが気になる。あの後黒尾さんは私がわざわざ遠ざかることをしなくても、近づいてきたりはしなかった。
やっぱり怒ってるのかな。
「負けたら罰ゲームな」
ニヤニヤ笑いながら黒尾さんが言う。目は合わない。声からも私や研磨に怒ってないかは判断できなかった。
そればっかりに気がいってたせいか、罰ゲームをどこか他人事に捉えてる私。
さすがに私は関係ないでしょ。女子だし、いつも一緒にいるメンバーじゃないし。
「えー、ナニナニ!」
「そうだな。一番早くに落としたやつが、頭まで海に浸かる。どーよ?」
「また悪趣味な……」
「…最悪」
覚くんが訊ねると、ニヤリと言い放った黒尾さんの案に京治や研磨がぽつりと反応した。
笑ってる人がいれば、二人みたいに嫌そうな顔の人。反応はそれぞれだけど反対する人はいない。
本気で負けたら海に入るつもりなのか……夏とは言え夜だよ?寒いし怖い。
本当男って馬鹿だなあ、なんて思ってると黒尾さんがビシッと私を指さした。
「もちろん七世、お前もだぞ」
「はっ、えっ!?」
急な呼び捨て、怒ってるかわからないけど喋りかけてくれたこと、笑った顔。安心よりも混乱が勝って頭が追いつかない。
ちょっ、……待って!
私も負けたら海に入るって言ってんの……?!それこそ本当に馬鹿じゃない?!
私女子だから!
「無理です絶対!私関係ないですよね普通!」
「いーや、お前もだ」
「頭おかしいです!」
私が慌てて反対しても、黒尾さんは譲らない。
さてはこの人、怒ってはないけど根に持ってるな……。なんだか、ちょっとムカッときた。
いいよ、周りも味方にするから!どうせ女子を夜の海に浸からせるなんてクレイジーアイディア、他の皆まで許容してるはずがない。
近場にいる研磨と京治が良識なふたりで助かった。
身近なところから取り込んでいこうとすれば、一人、予想外な……というより忘れていた厄介な人物が口を開いた。
「女だからって逃げんじゃねえよ。勝てば問題ないだろ?」
ニヤリ。口角を上げてイヤーな笑顔を私に向けたのは、京治の隣に座っている堅治だった。
堅治いぃ……!!
弱みを見せるなって忠告してくれた影山だけど、この状況を弱みと捉えるならもう私は堅治に敵わないだろう。