第2章 #02
「クロはもう何年も前から、女関係はこんな感じ。……拒む相手がいないから、感覚が麻痺してる。普通に接することを思い出せない」
「……」
「七世一人がそういう態度とったって、たぶんこの後も変わらない。七世がいないところで変な女を引っ掛けて、拒否された感覚なんてすぐに忘れる」
幼馴染に対する研磨の少し厳しめな態度がスっと腑に落ちた。
あんまり大きくはない落ち着いた研磨の声は、優しさを含んでるわけでも冷たく突き放すようなものでもない。
でも黒尾さんのことをいい方向に導きたいのだけはわかる。
こんな視点で考えられるのなんて、黒尾さんのこと真剣に考えてないとできない。
私の中でさっきとはほんの少し、 二人の関係が変わって見えるようになった気がした。
「俺の勝手だから、七世は悪いと思わなくていいよ。それにやっぱり傷つかないためにも、近づかない方がいい」
「……わかった」
研磨が黒尾さんを更正させるために、黒尾さんを拒否した私はこれからも近づかない方が好都合。
普段の周りにいる女子とは違う珍しいタイプみたいだし、利用する機会なんて滅多にないからなんだろうな。
研磨の勝手っていうのは私の意思に関係なく、黒尾さんの更生のために私を彼から遠ざけて普段の行動の反省を促すこと。
傷つかないために近づかない方がいいって言うのは、研磨が女関係で全く黒尾さんを信用してないから。その“全く”と思わせるほど、黒尾さんが女にだらしないから。
影山や堅治が私を遠ざけるのと似ているようで、研磨のそれはしてることの重みが違う。研磨の気持ちもわかる。
わかるけど……。
わかったって言葉にした反面、腑に落ちない気持ちがどこか胸の奥にあって。
それはきっと不満げに言った黒尾さんの表情に、本当に手を出す気なんてない、と。そう言ってるような気がしたから。
研磨がじっと花火を見つめる横顔は、昼に初めて話しかけた時みたいな近づきがたい不思議な雰囲気を放っていた。
*
ネズミ花火や設置するタイプの花火を終えて、最後に残ったのは線香花火だった。
この浜風の吹く砂浜で一番風に弱い花火をするわけ……?
ロウソクの周りに集まって輪っかになって砂浜にしゃがむ。数人はどっかりお尻をつけて座り込んだ。
右隣の京治から線香花火の束を受け取る。