第2章 オレはもうぼっちゃまじゃない
日中の騒がしさはどこへやら、放課後の教室はがらんとしている。
時折入ってくる爽やかな風に運ばれてくる部活生の声は、この時間は眠気を誘う子守唄でしかなくて。
欠伸を噛み殺しながら日直最後の仕事である日誌を書き埋めていく。
「なぁ。今日女子って体育何やった?」
「女子はバスケー」
バスケね…そう呟きながらスラスラと日誌を埋めていく快斗の手をボーッと見ていると、そーいやぁさ、と手元に視線を落としたまま快斗が口を開く。
「オメー、あれどうしたんだよ?」
「あれ?……って、どれ?」
「ほら、あれだよ。朝のあいつ……」
何が、とは言わないその声は、なんとなく不機嫌そうな色が混ざっていて。
いきなり出てきた朝のあいつがすぐに思い出せず、記憶の中のあいつ探しに手間取っていると、手元から視線を上げ頬杖をついた快斗が真顔で言葉を続けた。
「呼び出されてたじゃねーか。…告白、だろ?」
そこまで言われてようやく思い出した朝のあいつ。
確か隣のクラス、だったような。
「あー…どうしたって、どうもしないよ?」
あの人初めて話したし、と言うと、ふぅんと特段興味がなさそうな返事が返ってくる。
話振ってきた割に興味ないんかーい、と心の中でつっこんだ瞬間、バンッと勢いよく日誌を閉じて立ち上がった快斗に驚き眠気が引っ込む。
「礼、アイス食いに行こーぜ!」
うめーアイス屋があんだぜ?とこちらに向けられた顔は、ニカッという効果音が聞こえてきそうで。
えっと……あれ?不機嫌そうに感じたのは勘違いだった、のか?
ついさっきまで感じていた雰囲気が欠片も残っていない快斗に思わずポカンとしてしまう。
「アイス好きだったろ?礼はちっせーときからいつも抹茶食ってたよなー」
チョコのがうめーのに、と言いながら教室の扉に向かって歩き始める快斗を慌てて追いかける。
眠気でうまく働いていなかった頭は、快斗が纏う空気の変化に着いていくのがやっとで、まさかこのタイミングであの人と再会することになるなんて微塵も思っていなかった。