第2章 オレはもうぼっちゃまじゃない
その日の夜、私は怪盗キッドが予告状を出したという銀行に来ていた。
怪盗シャノワールが現れた数日前のあの日とは違い、中森警部はどこかソワソワしているように見える。
そんな中森警部へ殺人事件が起きたことを慌てて伝えに来た刑事に、怪盗キッドは俺の生き甲斐なんだ!と声を張り上げ訴える中森警部は、殺人ですよ警部…という刑事の言葉が全く耳に入っていない様子で。
「待っていたぞ、この8年間!このワシが逮捕してやる!」
そう豪語した中森警部に苦笑いを零しながら、私は警戒態勢を取っている警察の輪を静かに抜け、一人ビルの屋上へ向かった。
屋上で怪盗キッドを待っていると自分以外に人の気配がし、慌てて側にあった貯水タンクの後ろに隠れる。
影から出てきたその人物を確認しようとするも、雲が月を隠し辺りは暗くよく見えない。
目を凝らしてその人物の様子を伺っていると、下からパリンとガラスが割れる音が聞こえ、騒がしさが屋上まで届いてきた。
予想があっていれば、ビルの外壁を登って怪盗キッドが屋上へ来るはず。
誰か知らないけど、あの人邪魔なんですけど…
なんで屋上いるの?え、刑事なのなんなの?
貯水タンクの影から屋上にいる自分以外のもう1人の人物を睨んでいると、急に声が響く。
「ダミーを落として自分は上にか…古い手だぜ!」
「き、きさまはいったい!?」
雲から顔を出した月が照らした2人の姿は、瓜二つだった。