第3章 魔物の脅威
「うぎゃ」
尻餅をついて見上げた先には、紅い双眸。
金色の禍々しいツノ。
深紅のローブを纏った整った顔立ちの男。
ソイツはにいっと口の端を持ち上げた。
「やっほーチビちゃん。人間で言うところの1ヶ月ぶり?」
覚えてる。
あの日、父さんを殺したヤツの隣にいた。
言いたい事があるのに、喉に蓋をされたように出ない。
言いたい事があるはずなのに、泡のように消えていく。
開いた口が塞がらない。瞬きも許されない。
「あ、見た?女の子の死に顔」
男は愉快そうにほくそ笑む。
「ああならないと良いね〜」
男は人差し指で宙に弧を描く。すると、俺の右足が付け根からすっぽり消えた。
痛みも痒みもなく、感覚だけが抜け落ちた。
「お前は将来、俺を倒しに来るだろうね。根拠の無い予想だけど」
男は肩を竦めた。
「でも……そう簡単に海を渡らせてあげないよ?」
男は気味の悪い笑顔を作る。
「まずはその右足を貰った。明日は左足だ。それからは俺の気まぐれで少しずつ、お前の体の部位を貰っていく。大人しく貰われてよ?さもなくば、さっきの幻が現実になる」
これは、脅迫だ。
俺を怖がらせる為のウソ……だと信じたかった。
さっき奪われた右足が真実である事を裏付けるには十分だった。
「さあ、親愛なる同居人がお呼びだ。早く目覚めてあげなよ。お前の動かない足を見て、何を言うんだろうねぇ」
男の高笑いが木霊しながら遠ざかっていく。
景色が暗くなって……