第12章 遠い記憶
ミカエルside
兵舎についた頃にはもう、辺りは暗くなっていた。
いつも兵長に紅茶を淹れている時間はとっくに過ぎて、リンは部屋にいなかった兵長を探していた。
「部屋にいないということは...きっとあそこだ...‼︎」
兵長はたまに、私と兵長が再会したあの訓練所の大きな木の下で、月を眺めている。
「いたっ...‼︎」
リヴァイ 「リンか...。今日は休日だったんだろう。ふっ、律儀なやつだな」
あれから1年、名前を名乗ることができないのが辛い時期もあったが、今では自然にリヴァイ兵長と呼べるようになっていた。兵長もまた、私をリンと呼び、リン・キーンとして気に入ってくれているように感じた。
「違いますよ。わたしもたまたま月を眺めたかっただけです」
そう嘘を言って、私は兵長の横に座った。
リヴァイ 「なぁ、リン、俺がどうしてわざわざここで月を眺めるか分かるか?」
「......。」
私が黙っていると、兵長はそのまま続けた。
リヴァイ 「ここで月を眺めていると、ある記憶をはっきりと思い出すことができる。あの時は地下街の薄暗い闇の中だったが、この木の葉や枝の間から漏れる光がどうにもあの日のものと似ていてな。」
ミカエルは気づいていた。そして、全く同じことを思っていた。だが、それを口に出すことはできなかった。
リヴァイ「今日はやけに綺麗だな」
「はい。今日は月明かりが一層に強く感じます」
リヴァイ「...!?何を泣いていやがる...。ったく、年頃の女が簡単に男に涙をみせるんじゃねぇ...それに、」
兵長は私の頬に手を当てて言った。
リヴァイ 「綺麗なのはお前だ。」
...心臓が止まるかと思った。さっきまで月を見ていた兵長の顔が、うんと近くにあって、私は動かなくなった。
兵長は顔を赤くした私をみて優しく微笑んだ。
リヴァイ 「ふっ、戻るぞ。...送ってやる」
遠い記憶の中の自分が兵長の中でどんな存在なのかは分からなかった。けれども、今はリン・キーンとして少しでも彼の側に居たいと思った。