【文ストR18】hide and seek【江戸川乱歩】
第2章 水神湖事件簿 R18
「侑芽、暇?」
「は、どこからどう見ても仕事中ーー」
「暇そうだね、行くよ」
「は?なに、は???ちょ…!!」
てんちょーー!
腕を掴まれ、ずるずると店外へと引きずり出される。
助けを呼ぶように店長と叫ぶ私に、店長は苦笑しながら手を振っていた。
ウチの店長はコイツに甘すぎる…!
「で。ここ、どこ」
よくわからないまま電車に乗せられ、バスに揺られ、寂れた村のどこかの停留所で降ろされた。周りは田んぼや畑が広がっていて、道には殆ど車も通らない。これは、ひとりで帰るのは不可能なやつと違いますか。
途方にくれたようにその場に立ち竦む私に、近寄る陰がひとつ。ギャーギャー叫ぶ私と我関せずに突き進んで行った乱歩の間に挟まれていた不幸な男の子だ。
「本当、すいません…」
ペコりと申し訳なさそうに謝る、色素の薄い髪の、乱歩と同じくらいの背丈の彼。確か乱歩の同僚で、名前はなんてったっけな。
「あ、僕、中島敦と言います」
考えてたらあっちから自己紹介してくれた。常識人で素晴らしい。
「いつも乱歩が大変お世話になってます。湘雪侑芽です」
なんやらよく、保護者みたいに乱歩には誰かが一緒にいることが多い。ひとりで電車も乗れないし、財布も持ち歩かないからだろう。よくこんなんで仕事やってんなと思う。この若い子もそれに付き合わされてるひとりだ。この前なんておんぶさせられてたよな…ご愁傷様です。
なんだか振り回されてる者同士なので、勝手に親近感が湧いてくる。にっこり笑って気にしないでね、とその若者の肩を軽く叩いた。
「君が悪いんじゃないから、謝らないでっ。この傍若無人で唯我独尊な自分勝手野郎が私を引っ張り込んできたんだから。当の本人は謝りもしないけどねー」
本当、クビになったら家に押しかけて養ってもらうからな。
若者ーー敦君は、苦笑しながらも頷いていた。お互い大変ですな。
にしても。こんな寂れた山村で、ウエイトレス姿で道路に立ち竦む私は非常に浮いてやしないか。
「何してんの。お迎えきたよ」
へ。と乱歩の方に向き直ると、黒塗りのクラウンが私たちがいる一本道へと近付いて来るのが見えた。