第2章 はじめての時間
ビッチお姉さんが体操服を着てゆらゆら力なく出てきた。
僅かな時間で肩と腰のこりをほぐされ、小顔とリンパのマッサージもされ、更に体操服に早着替えさせられたらしい。
「その上まさか、触手とヌルヌルであんな事を……」
後で先生に何をしたのか聞いてみようと思ったら、渚くんも同じ疑問を持っていたようで問いかけてくれた。
先生は大人には大人の手入れがあるとか言って、陰りのある真顔になっている。
渚くん曰く、悪い大人の顔。
先生に促されて皆が教室へ戻っていく。私は残って、未だに地面にくずおれてるビッチお姉さんに向かった。
「イエラビッチお姉様」
無駄に抑揚をつけて、言う。
訝しげにこちらを見上げるビッチお姉さんは意外そうな顔をしていた。
「何よ」
「倉庫の中でどんなことされたの?」
「ふん、そんなに知りたいんだったらあんたも色仕掛けで暗殺仕掛けてみることね。どっちもガキにはまだ早いけど」
この人はやたらと私たちを子供扱いするんだなと思った。
どうすれば、どこからが大人なんだろう。二十歳になれば、体が成熟すれば、精神が成熟すれば、大人といえるのかな。
でも私たちは一生中学三年生のままだ。来年には先生が、子供には不条理すぎるこの世界を終わらせてくれるんだから。
ビッチお姉さんみたいな色仕掛けも、暗殺も、私にはできない。
「いい。いつか自力でぬるぬるしてもらう」
「は? 変なコ」
錆びた刃での暗殺じゃなく、綺麗な羽ではばたいて。
先生の方から私にぬるぬるしたいって思わせる。
自分でも何言ってるのか分からないけど、無性にそう思った。
そしたら先生に会いたくなって教室へと急いだ。廊下を歩いていた先生に後ろから抱きつこうとしたら、シュッとよけられた。勢いをつけすぎてつんのめりそうになったけど、なんとか体制は整えた。朝からずっと、いつ言おうかとタイミングを伺っていた話をここですることにした。
「先生! 朝に花壇みたらね、芽が出てたの! たくさん」
「本当ですか! 先生ちょっと見てき――ました!」
瞬きの間に花壇まで見にいったらしい先生が興奮気味にそう言った。
「あれはハナビシソウですねぇ。上手に育てれば一年中花をつけますよ」
「大切に育てるよ。すっごく大切にする! 大好きな先生と植えた花だもん」
先生はうっすらとしたピンクの顔色になって微笑んでくれた。