第2章 はじめての時間
episode07.羽
五月は色んなことがあった。
中でも私は、中間テストのことが一番印象に残っている。
第二の刃、私はそれを羽だと捉えた。空の向こう側へ行くための羽。
先生に貰った小さな羽が大きな翼になって、飛び立つ準備は出来ている。
先生の温もりが伝わってくるから、恐れるものは何もないよ。
*
カルマくんの次に本気で先生を殺そうとしたのは、英語の教科担任としてやってきたプロの殺し屋であるイリーナ・イエラビッチって女の人だった。自己紹介の時もずっと先生にべたべたくっついて巨大な胸を押し付けていた。
先生のあんなにまでとろけた顔を見たのははじめてで、嫉妬よりも、人間もいけるんだ、良かったって気持ちの方が勝っていた。先生は地球生まれの地球育ちって言っていたけど、同じ触手を持ったちょっぴりタコっぽい生物にしか興味がないのかもって思っていたから。
今日の体育は先生を型どった的に弾丸を命中させる授業。
私の弾はびっくりするほど当たらなくて、才能の無さをまざまざと思い知らされる。いや、これは的の形が悪いんだよなんて心の中で言い訳していると、三村くんの声が聞こえた。
「おいおいマジか。二人で倉庫にしけこんでくぜ」
三村くんの指差す方に視線を流すと、先生とビッチお姉さん(本人がお姉様とお呼びと言っていたから一応そう呼んでいる)が倉庫に入っていくのが見えた。
今日の今日で暗殺を仕掛けるなんて、思っていなかった。倉庫の中で何をするつもりなんだろう。気になってしょうがなかった。でも、先生なら大丈夫っていう根拠の無い自身もあった。
物凄い銃声が轟く。一分ほど経過して、今度はビッチお姉さんの艶っぽい甲声と触手の音。
暗殺が失敗に終わったことはわかった。
皆も倉庫でどんな手入れがなされていたのか気になっているようで、見に行ってみようという流れができている。私はその流れにひっそりと乗り、倉庫へ近づいた。