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名の無い関係

第23章 和かな軍議


明け方の空に信煙弾が打ち上がった。
調査兵団本隊の帰還の合図を見つけた駐屯兵団の兵士が慌てて彼女達が待機していた部屋のドアを叩いた。


「信煙弾を確認しました!」

『行こう。』


まるで伝令が来る事がわかっていたかのようにアゲハは落ち着いていた。
しっかり装備も整えていた彼女達は部屋を出る。
真っ直ぐに壁上に向かい、こちらに向かってくる一団を目視で確認した。
駐屯兵団の兵士達が慌しく扉開放の準備をしている。


「赤の信煙弾を確認!」

『降ります!壁下集落に待機!』


アゲハの声を合図に、朝日にワイヤーが輝いて飛んで行く。
赤の信煙弾の意味は「帰還準備求む」だ。
もし、巨人に追われる帰還になる場合はこちらに戦闘準備をさせる為に黒の信煙弾を撃つ事になっていた。


「隊長、配置完了しました。」


小さな点がしっかり馬上の仲間達の姿だと見える距離に近づいている。
普段は壁に集まる巨人達は、向こうに引き寄せられているのか扉の周辺には一体もいなかった。
廃墟となったかつてはそれなりの金額で客を泊めていただろう宿屋の屋根の上に待機した。


『なんかおかしい。』

「そうですか?」

『少な過ぎるよ。』


周囲へ視線を巡らせていたアゲハは、表情を歪めた。
仮に本隊の方に巨人が引き寄せられているとしても、数が少な過ぎる。
かつて、こんなにも簡単に帰還出来た事があっただろうか。
巨人に追われる事なく壁内に戻れるならそれに越した事はないが、巨人を相手にそんな簡単なわけがない。
ミケがこの場にいたならば匂いでわかったのかもしれない。


「隊長!あれっ!!」


本隊の後方、ギラギラと何本ものワイヤーが輝いているのが見える。
それは壁に巨人が集まって居なかった理由。特別作戦班が必要以上に戦い巨人の気を引いているに違いない。


『ったく!リヴァイね。』


アゲハは他の兵士に駐屯兵団に扉を開ける様に合図を送らせ、自分以外の後援部隊は扉直前で待機するよう命じた。


「アゲハー!」

『エルヴィン!そのまま駆け抜けて!』


アゲハはそう言うとワイヤーを彼等の後方へと勢い良く打ち出した。
巨人の走り寄ってくる土煙りに向かって行く。
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