第5章 近づく心
その後本館へと入っていったリヴァイは、アイリーンの想像通り、自室の前で立ち止まった。
なんとなく懐かしい気持ちになり、鼓動が一際大きく音を立てる。
リヴァイは普段と変わらない仕草で自室のドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開く。
リヴァイの背中越しに見えるリヴァイの部屋。
眩しいものでも見るかのように、アイリーンはすっと目を細めた。
リヴァイの背中越しに見える部屋は、以前来た時と何も変わっていないように見える。
スタスタと部屋へと歩みを進めるリヴァイと共に、アイリーンも部屋へと足を踏み入れた。
潔癖症のリヴァイらしく、その部屋はやはり綺麗に整理されていて、埃一つない。
唯一少し散らかっているのは、書類の置かれた机だけだ。
一カ月程前に訪れているはずなのに、この場所はとても心地よく思えた。
先程まで煩いくらい音を鳴らしていた心臓も、今は平常時まで落ち着いてしまっている。
「ここで待ってろ。すぐ戻る。」
「あ……」
すっと離されるリヴァイの手、温もり。
ずっと繋いで歩いてきたからか、少し汗ばんでいた二人の手が離れると
凍える程の冷たい空気が体に流れ込んでくる錯覚に見舞われた。
淋しさを覚えて思わず声をだすと、リヴァイはアイリーンの顔を見つめてふっと笑みを作る。
「少しだ。我慢していろ」
ぽんぽん、と頭を何度か軽く叩いてリヴァイは自室から出ていく。
ガチャンと扉の閉まる音を聞いて、ようやくアイリーンはふぅ、と小さく深呼吸した。