第4章 疑惑
王女を前にして、大将軍は焦っていた。
このままだと王女を殺してしまう。
だが、王女を殺さぬようにすれば、
自分が王女に殺される。
戦の最前線でも感じないほどの、
己の死への圧倒的恐怖。
齢50を超えた大将軍が、息子よりも
歳下の王女を恐れているのだ。
(カイルがこんな儂を見たら…)
あの従弟は笑うだろうか。
怒るだろうか。
哀しむのだろうか。
従兄の老いを悔やむのだろうか。
(虚仮にされて堪るか…!)
ツンと大将軍の胸に浮かんだのは、
他でもない、怒りだった。
あの愚かで冷酷な従弟に、
虚仮にされることがいかに屈辱か。
カイルが即位してから嫌というほど
感じてきた。
(殺さない程度に…王女を)
覚悟を決めた大将軍は、
国の王女を殴って気絶させた。