第1章 朧月夜
言葉から溢れ出る、押し殺しきれなかった気持ち。
それを受け取っただけでも、胸に氷柱が刺さったみたいな痛みが走る。
「自分と幼馴染やからって、財前まで後ろ指さされへんようにってこと?」
ゆっくりとした口調で聞くと、言葉の代わりに彼女はこくりと頷く。
首を縦に振る動きに迷いはなかった。
「…寂しないん?」
「それであの子が、学校で肩身狭い思いせんで済むんやったらそれでええ」
泣いている子供をあやす母親のような優しい声なのに、聞いていて喉の奥がきゅっと締まり、目尻が潤んできそうになる。
それはきっと、彼女の目が泣いている子供のように「寂しい」と叫んでいるから。
「…ごめん、白石くん」
もう一度頭を下げる彼女が、続ける。
「今日の数学の自習の時…助けてくれたのに、酷い言い方してもうてごめん。ホンマにごめん」
拙いながらも、慎重で、丁寧な言葉が、夜空を照らす星たちのように瞬く。
数学の自習、高野小夜が白石を突き放した理由は、恐らく財前のそれと同じだろう。
敢えて自分が憎まれ役を買うことで、白石の方にも火の粉が降りかからないようにああ言ったのかもしれない。
「けど、これ以上は…ホンマに無視してな。私の方は大丈夫やから」
聖女のような優しい笑みを浮かべながら、寂しそうな声で絞り出すようにそう言った。
―めっちゃ感じ悪い
それは誤解だと、今ならハッキリ否定できる。
言葉は多くないし、分かりにくいけれど、こうして話してみれば本当は優しい少女なのだ。
それまで黙って彼女の言葉に耳を傾けていた白石が、今度は自分の番だと、口を開いた。