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【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜


 一向に上がることのない二つの頭。
 彼女より先に頭を上げたくなかったので、少しだけ頭を上げて彼女を見る。
 すると、同じように少しだけ頭を上げて白石を見ていた高野小夜と目が合って、飛び上がるように頭を上げた。
 そうしたら、まるで写し鏡みたいに、彼女も飛び上がるように頭を上げる。
 それが何だか可笑しくて、ヘラリと笑いかけると、彼女は目をすうっと細めて、一文字だった口元をふわりと綻ばせた。

笑った。

 頭の中でそう認識すると同時に、心臓がドキッと不規則に脈打った。
 微笑む、と言ったほうが近い大人びた笑顔だったが、年相応のあどけなさもあって、綺麗にも可愛らしくも見える。
 小説によくある「蕾が綻び、花開いていくような…」という表現がピッタリだと、率直に思った。
 
「でも、もっと早よ言うてくれたら良かったのに。高野さんの方はウチらのこと知っとったんやろ?」

 爽やかに「はは」と笑い声でも付け足したくなるくらい、軽いノリで言ったつもりだった。
 その直後に目の前の彼女から花のような笑顔が散った瞬間、すぐに後悔した。

「それは…内緒に、しとったから」

 先程までとは打って変わって、浮かない声が返ってくる。
 伏せた拍子に長い睫毛が半分くらい覆った目からは、憂いの色が帯びていた。
 もしかすると、財前がカミングアウトをする時、高野小夜を一瞥したのはそれが関係あるのだろうか。
 あれは「勘付かれた以上、もう話すぞ」という旨の、答えを求めない疑問の目線だったのかもしれない。
 
「…理由、訊いてもええ?」

 慌てて「無理には言わんでええけど」と付け加えた。
 訊かずにいられなくなって訊いたとはいえ、ただのクラスメイトに対しては踏み込みすぎたという自覚はあったから。
 しかし、俯いたまま高野小夜が顔を上げた。
 話す覚悟を決めたことが、その面持ちからひしひしと伝わってくる。
 
「光くんまで嫌な人やって、皆に思ってほしなかったから」

 気持ちを押し殺したような声が、そう言った。
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