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【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜


「そうなんや。じゃあ、生まれた時くらいからの付き合い?」
「聞いた話では…お母さん同士が昔の同級生で、結婚した後の新居がたまたま隣同士になったって言うてた」
「じゃあもうホンマの姉弟と変わらへんな」
「せやな。怒られるんやけど、ついつい弟扱いしてまうわ」
 
 ぎこちない会話。テニス部のメンバーと普段しているそれと比べたら、ノリもテンポもだいぶ悪い。
 白石が一言言うたび返ってくる彼女の言葉は、大体ワンテンポ遅れてやってくる。
 でも不思議と、心地悪いとは思わなかった。

「分かる。ついつい世話焼きたなってまうよな財前て…って、幼馴染に向かって知ったかぶりもええとこやけど」
「いや、そんなこと…あと、何やかんやで人の好意とかは無碍にせえへんもんなぁ」

 だって、二人の会話に必要なワンテンポだから。
白石の言葉にどう答えればいいのか、どんな言葉を使えばいいかを、彼女が必死に考えるためのワンテンポだから。

「逆に財前って家ではどんな感じなん?」
「人によってそない露骨に態度変える子ぉちゃうから…部活の時のまんまちゃうかな?」
「年上にも平気でグサッとくること言うたり?」
「家ではようお兄さんに言いよる」

 話していくうち、彼女の表情も初対面の時のような堅いものから徐々に柔らかくなっているような気がする。
 もし白石の想像通りなら、白石は彼女とここまで打ち解けた初めてのクラスメイトになるのだろうか。

「あとは…人のおやつとかご飯のおかずとか横取りしたり」
「あ、それケンヤが…忍足がようやられとうヤツや」
「そうなん!? 忍足くんには、その、申し訳ないことを…」

 彼女の言葉は、彼女の心をのせて必ず返ってくる。
 この会話を続けようと気を配っているのが、白石だけではないことが分かる。
 だからだろう。このぎこちない会話が、テンポも間も悪いやり取りが、こんなにも暖かくて心地良いのは。

 時間がゆっくり、少しずつ進んでいく、昼寝をしているような心地よさ。
 しばし雰囲気に浸っていると、突然氷のうを膝に置いた彼女が、背筋をピンと伸ばして深々と頭を下げた。

「改めて…いつも光くんが部活でお世話になってます」

 見えるつむじに、声に感じ取れる、彼女の精一杯の誠意。返したくて、白石も頭を下げ返した。

「こちらこそ。大事な幼馴染、預からせてもろてます」
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