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【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜


 お通夜のように静けさが過ぎる保健室。
 俯き加減に、氷のうをひたすら目に押し付ける彼女と二人きりで、しかも何の会話もない。

何か喋った方がええんかな

 とは思ったが、無視をされたらと思うと、行動には移せなかった。それこそ

―私は一人で大丈夫やから、何も言わんでええねんで

 的なことを言われてしまったら…なんて考えると、どうしても声が詰まる。
 そもそも女子と喋ること自体、あまり得意ではないのだ。

いや、落ち着け。落ち着くんや蔵ノ介。物事をそんなマイナスに捉えたらアカン。

 弱気になる心を奮い立たせて、もう一度彼女をチラリと見る。

 もう一度。もう一度だけ、彼女とちゃんと向き合って話してみよう。
 それでダメなら、もう必要以上に高野小夜という少女に関わるのはよそう。

 詰まる喉を突き破れるだけの空気を吸い、口を最初の一言の、最初の一文字の形を作った。

「そ、それにしても…高野さんが財前と幼馴染やったなんて…ビックリしたわ。どんな感じで知り合うたん?」

 声が、いつもよりずっと上擦って、チワワみたいにプルプル震えているような気がする。
 だが彼女の、氷のうで覆っていない方の目からは、怪訝そうにしている気配は感じないため、自分で思っているよりは普通に話せているのだろう。
 少し考え込む素振りを見せた彼女の口もまた、最初の一言の、最初の一文字を形づくる。

「ど…」

 薄い唇から、どんな言葉が出るのかな。どんな気持ちを乗せてくるのかな。
 出来れば、あまり酷な返事じゃなければいいな。
祈るように彼女の返事を待っていると、ほどなくして、澄んだ声が保健室を包んだ。

「どんな感じかは、私も覚えてへんくて…ホンマに、気ィ付いたら一緒やったから」

 たどたどしく返って来た言葉は単純に、白石の問いへの答え。
 彼女の口から、否定の言葉が出て来ないところを、初めて聞いた。

 胸の中からキラキラした何かが、泉のように沸いてくる。
 その言い表しようのない高揚感が失速しないうちにと、言葉のボールを投げ返した。
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