第3章 もう涙は枯れ果てた
「そこのベッドを使え」
予想外の言葉に、目を見開いて彼を凝視する。
「え、私がベッド使っていいの?」
「あァ。おれは大体いつもソファーで寝るからな」
本を読みながら寝るのがおれの日課だ、なんて言いながら、ローテーブルに散らかった分厚い本を片手に取り、ソファーに座って読み出した。
意外と優しかったりするんだ、なんて私は関心する。
「生憎能力者なんでな、浴槽はねェがシャワーは部屋に完備してある。勝手に使え」
「はーい」
自分の鞄を漁り、寝巻きとタオルを取り出した。
チラっとトラファルガーの方を見れば、すでに彼は本に夢中なようで。私の存在なんてお構いなし。そっちの方が楽でいいけどね。
とりあえず今日はいろんな汗を掻き過ぎて、気持ち悪い。
なんの戸惑いも無く、シャワー室に入った。
「意外と早いんだな」
五分足らずで部屋に戻った私に、トラファルガーは少し驚いていた。
「ずっと治安の悪い島を旅してたから、ゆっくりするっていう感覚があまり無いの」
「…へェ」
興味があるのかないのか。彼はそう一言呟くと、続いてシャワー室に入っていった。
読めない男、厄介だ。
まだ少し濡れている髪の毛を軽くタオルで拭きながら、使って良いと言われたベッドに腰かけた。思ったより柔らかくて、ゴロンと寝転がってみる。
「フカフカのベッド…何年ぶりだろー」
ずっと節約の旅をしていたから、安宿ばかりでベッドは硬くて仕方なかった。久しぶり過ぎる安らぎの感触に、思わず顔が綻ぶ。
そして急に押し寄せてきた眠気に目を閉じた。