第14章 6つ目
『私は誰の子でもない「無」から生み出された人間の模造品に過ぎません』
仁「何を言っておるんじゃ?」
『実際にそうではありませんか。私は人間として出来損ないです』
模造品、と聞いた瞬間
俺の胸は息を詰まらせた
『一度死んだ人間が、同じ生活に戻る事は出来ないんですよ』
仁「いいや、出来るぜよ。今までそうじゃった」
『それは自分が何もかも忘れていた愚か者だったからです』
仁「その愚か者が真実を知れば、今までの生活に戻れんのか?」
『では、真実を知ったら元の生活に戻れると言うのですか?』
仁「戻れんかもしれん。じゃが、別の生き方があるはずじゃ」
『別の生き方?』
仁「お前さんは怖いんじゃ。自分を信じる事、俺達を信じる事に恐れておるんじゃよ」
『!、そんな事は』
仁「いいや、そうじゃ。じゃなきゃ俺達を引き離しりなんかしんじゃろう。奈々を突き放したのだって同じ理由じゃなか?」
『...私は』
仁「お前さんは人間じゃ。そして今、生きておる。違うか?」
『......』
仁「自分が何者かわからないから怖い。そして俺達を裏切った事により俺達が怖いんじゃろう?」
強く抱いておるせいなのか
俺の腹の辺りから氷月の鼓動が伝わってくる
死んでおったら、こんな鼓動は俺に伝わって来ん
仁「俺はお前さんは人間だと断言しちゃる。お前さんは俺達を信じるだけでええんじゃ」
『簡単に言ってくれますね』
仁「そうじゃな。じゃが、俺はお前さんを信じておる。俺達を信じるお前さんを氷月を」
『それでも、私は』
仁「お前さんの体からしっかりと命が聞こえてこんか?それが生きておる証拠じゃ」
『......』
仁「怖いか?怖いなら俺が受け止めてやる。お前さんを絶対に生きて此処から出してやる。絶対じゃ」
『それは、信じても...』
仁「ああ、ええんじゃよ。お前さんは今まで1人で頑張りすぎたんじゃ。俺達を頼ってくれんか?」
氷月は今、揺らいでおる
俺達を信じるか否か
死んでおる人間ならこの説得は聞かないじゃろう
じゃが、氷月は心の何処かで自分がまだ死んでいない事を思って居った
じゃから、俺の言葉に揺らぎ自身の答えを探して居る
『では、私に名前をください』
仁「何故、じゃ?」