第4章 西谷 夕
西「大丈夫か!!」
彼女の口からはヒューヒューという音が聞こえる。俺は彼女を抱きかかえ、側のベンチへ座らせた。そして彼女は自分のポーチの中から、何かを出そうとしているが、うまくファスナーを開けられない。
貴「く・・・くすり・・が」
西「わかった。開けるぞ」
俺はポーチをあけた。中には手のひらサイズの筒状のものが入っていた。彼女がそれに手を伸ばす。
これって見たことあるぞ、ネブライザ(吸入器)だっけ。彼女はネブライザの中に薬を入れ吸入した。
西「落ち着いてきたか?」
彼女は吸入しながらコクリと頷く。しばらくして、だんだん呼吸も整ってきたようだ。
貴「どうも、ありがとう。助かりました」
西「喘息の発作なのか?」
彼女は俺の問いに答えず、大きな瞳をさらに大きくして悪戯っぽく笑うと
貴「西谷 夕、私の事忘れちゃった?」
西「え?!」
貴「いいよ、思い出してね。今日はありがとう」
と言い残し去って行った。
今日はおかげで練習に身が入らなかった。なぜ彼女は俺の名前を知っていたんだ?同じ学校か?でも、見覚えがない。
そういえば、なんでネプライザなんて知ってたんだっけ。俺が小さなころ使っていた奴がいたような・・・。
俺は急に思い出した。桜井つばさだ。